診療実績
甲状腺の病気と妊娠
妊娠前・妊娠中に定期的な検査をおすすめします。
甲状腺の病気は妊娠可能な女性に多く、病気のこと、治療内容、妊娠、授乳についてよく相談を受けます。甲状腺の病気があっても、治療で甲状腺ホルモン値が正常に保たれていれば問題はありません。
バセドウ病の場合、放射線(アイソトープ)治療は妊娠・授乳中にはできませんが、内服薬や手術で治療できます。病気が妊娠前にわかっていれば、先に治療をして甲状腺ホルモン値が正常になってから(内服治療の場合、抗甲状腺剤が維持量になってから)妊娠した方が安全です。
機能亢進状態では流産・早産の危険が正常の場合より高くなります。抗甲状腺剤は妊娠中や授乳中であっても使用できますが、専門医にご相談ください。
なお手術や放射線治療後の患者さんで甲状腺を刺激する自己抗体値が高い場合、お母さんに症状はなくてもお腹の赤ちゃんが甲状腺機能亢進を起こすことがありますので注意が必要です。このような場合でも内服薬で治療できます。
橋本病では甲状腺機能が正常であれば治療は不要です。 甲状腺機能低下症になっても甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)でホルモン値を正常に保っていれば、正常に妊娠・授乳できます。
甲状腺に異常がないお母さんでも妊娠中は不安やストレスが多くなります。ストレスがお母さんやお腹の赤ちゃんに良くないことは明らかです。せっかく授かった命です。きちんと治療を受けてさえいれば問題はないので、わからない点は何でも医療者に相談し、余計なストレスをためないように心がけてください。
甲状腺の腫瘍について
甲状腺腫瘍は、甲状腺にこぶ、しこりができている状態です。良性のもの(濾胞腺腫、腺腫様甲状腺腫など)と悪性のもの(甲状腺癌、悪性リンパ腫など)があり、これらが合併していることもあります。
濾胞腺腫(ろほうせんしゅ)
濾胞腺腫は甲状腺にできる良性の腫瘍です。超音波検査や穿刺吸引細胞診などで診断し、悪性の心配がなければ定期的に大きさをチェックします。甲状腺ホルモン剤の内服で腫瘍が小さくなることもありますが、腫瘍が大きくて悪性の疑いがあるときは手術をお勧めします。腫瘍が甲状腺ホルモンを勝手に作っているとき(機能性結節)は、手術またはアイソトープ治療をお勧めします。
腺腫様甲状腺腫
腺腫様甲状腺腫は、腺腫(甲状腺にできる良性腫瘍)の様な腫瘤が複数できて甲状腺が腫れている状態で、厳密な意味での腫瘍ではなく甲状腺の過形成です。超音波検査や穿刺吸引細胞診などで診断し、悪性の心配がなければ定期的に大きさをチェックします。がんを合併しているときは手術をお勧めします。
甲状腺の悪性腫瘍
甲状腺から発生する悪性腫瘍には乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、悪性リンパ腫、未分化がんの5種類があります。
乳頭がんが最も多く80-90%を占めます。リンパ節に転移しやすいですが10年生存率は90%以上とされ、とても予後の良いがんです。超音波などで検査し、穿刺吸引細胞診で診断できる場合が多いです。
次に多いのが濾胞がんで4-8%です。リンパ節にはあまり転移せず、肺や骨に転移することがあります。10年生存率は80%前後です。
髄様がんは1-2%と稀ながんです。遺伝性の発生が1/3ほどみられます。治療はいずれも手術が主体となります。
悪性リンパ腫と未分化がんは悪性度が高い腫瘍ですが、発生は1-2%と非常に稀です。